大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)2604号 判決

原告 株式会社三和銀行

右代表者代表取締役 川畑清

右訴訟代理人弁護士 小沢征行

秋山泰夫

藤平克彦

香月裕爾

香川明久

被告 株式会社アイチ

右代表者代表取締役 市橋利明

右訴訟代理人弁護士 野島潤一

主文

一  被告は、原告に対し、金七五二万三六八九円及びこれに対する平成五年二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

原告は、訴外大井隆一(以下、「大井」という。)の別紙物件目録≪省略≫記載の建物(以下、「本件建物」という。)に対し根抵当権を有し、右根抵当権に基づく物上代位権の行使により大井の訴外株式会社クボタ(以下、「クボタ」という。)に対する賃料債権を差し押さえたが、被告も、執行認諾付公正証書に基づき同債権を差し押さえていた。執行裁判所は、クボタが供託した供託金から手続費用を控除した残金を原・被告の各届出債権額に按分して配当を実施した。そこで、原告は、被告に優先して弁済を受けることができる旨主張して、被告が受領した配当金の不当利得返還請求を求めた。

一  争いのない事実等

1  原告は、大井に対し、平成二年九月五日、金五五〇〇万円を次の約定で貸し渡した。(≪証拠省略≫)

利率 年八・五パーセント

最終返済期日 平成一二年九月五日

返済方法 平成二年一〇月五日を第一回とし、以後毎月五日限り金六八万一九二一円宛。

期限の利益喪失 大井が債務の履行を遅滞したときは、原告の請求により期限の利益を喪失する。

遅延損害金 年一四パーセント

2  原告は、大井との間で、平成三年七月一九日、右取引の追加担保として、大井の所有に係る本件建物に極度額金一二〇〇万円、同金一二〇〇万円、同金一五〇〇万円、同金二〇〇〇万円の各根抵当権設定契約を締結し、同日、各根抵当権設定登記を了した。(≪証拠省略≫)

3  大井が平成三年四月五日分以降の前記分割金の返済を怠ったので、原告は、大井に対し、平成四年八月一四日付け内容証明郵便で期限の利益喪失の通知をなし、同郵便は同月二四日大井に配達された。(≪証拠省略≫、証人大久保伊織の証言)

4  原告は、東京地方裁判所に前記各根抵当権に基づく物上代位権を行使して、大井のクボタに対する本件建物の平成四年九月分以降の賃料債権の差押えの申立てをなし(平成四年ナ第二〇四八号)、同裁判所は、平成四年九月一八日、右賃料債権を金五九〇〇万円に満つるまで差し押さえた。(≪証拠省略≫、証人大久保伊織の証言)

5  右差押命令は、債務者兼所有者に対し平成四年一〇月一一日に、第三債務者に対し同年九月二一日に送達された。(≪証拠省略≫)

6  被告は、東京地方裁判所に執行力ある公正証書に基づき大井のクボタに対する本件建物の平成三年七月分以降の賃料債権の差押えの申立てをなし(平成三年ル第三一八〇号)、同裁判所は、平成三年七月一五日、右賃料債権を金二億一九三九万七二六〇円に満つるまで差し押えた。(≪証拠省略≫)

7  各債権差押命令事件は、千葉地方裁判所松戸支部に移送された(被告の債権差押事件が平成三年ル第一九九号、原告の債権差押事件が平成五年ナ第二三号となる。)。(≪証拠省略≫)

8  千葉地方裁判所松戸支部は、クボタが供託した供託金の配当等手続事件(平成四年リ第一二三号)の配当期日を平成五年一月二八日午後二時に指定し、原告は、平成五年一月七日付けで債権額合計金五九二一万八九三三円(元金五三一八万八二六〇円、利息金五五四万一〇五〇円、損害金四八万九六二三円)の内極度額金五九〇〇万円の範囲の債権計算書を同裁判所に提出し、被告は、元金一億八二〇八万一〇三二円の債権届出(手続費用は除く。)を同裁判所に提出した。(≪証拠省略≫、証人大久保伊織の証言)

9  同裁判所は、平成五年一月二八日、合計金九九六万四六八〇円(供託金九九四万九八〇〇円(平成四年九月から同年一二月分)、利息金一万四八八〇円)から手続費用三〇七八円を控除した金九九六万一六〇二円を、被告が債権届出した金一億八二〇八万一〇三二円と原告が債権届出した極度額金五九〇〇万円で按分した配当表に基づき、被告に金七五二万三六八九円、原告に金二四三万七九一三円を配当した。(≪証拠省略≫)

10  原告は、被告に対し、平成五年二月二日、内容証明郵便で不当利得を主張して金七五二万三六八九円の返還の請求をした。(≪証拠省略≫)

二  争点

本件配当手続において、原告に優先権があるか。

三  争点に対する当事者の主張

1  原告

物上代位という制度は、担保物権の対象の目的物について、担保権を行使できなくなった時に目的物の価値が代ったと考えられる物について、担保権の行使を認めるもので、担保権の目的物の価値の代替物に対する権利が競合した場合の権利の優劣は、担保権の目的物に対する権利が競合した場合の権利の優劣と同様に考えるべきことは当然であり、原告の権利が被告の権利に優先する。

2  被告

現行の民事執行法上は、賃料債権に対する抵当権の行使も、債権差押(転付)命令の形式をとるが、債権差押(転付)命令間の効力は、債権執行の分野における一般法論によることになる。すなわち、債権差押(転付)命令が競合すれば、債権額に比例した配当が実施されるべきである。

物上代位権の優先権は、物上代位権による差押の時との前後関係によるべきであり、本件においては、被告の債権差押の方が原告の債権差押より先行しているのであるから、民法三〇四条一項但書の適用ないし類推適用により原告の優先権を主張できない。(福岡高裁宮崎支部昭和三二年八月二〇日判決、下民集八巻八号一六一九頁参照)

第三当裁判所の判断

一  根抵当権についても、民法三七二条、三〇四条一項により物上代位権の行使が認められており、同条項但書において、その差押を要件とする趣旨は、右差押によって、第三債務者が金銭その他の目的物を債務者に払渡し又は引渡すことが禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の対象である債権の特定性が保持され、これにより物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面第三者が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、単に一般債権者が債務者に対する債務名義をもって目的債権につき差押命令を取得したにすぎないときは、その後に目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではないと解すべきである(最高裁第一小法廷昭和五九年二月二日判決、昭和五六年ロ第九二七号、民集三八巻三号四三一頁。最高裁第二小法廷昭和六〇年七月一九日判決、昭和五八年オ第一五四八号、民集三九巻五号一三二六頁参照)。

そして、物上代位権を行使した結果、債権差押えが競合した場合、配当手続における一般債権者との優先関係は、根抵当権者が優先するものと解するのが相当である。

なお、被告の引用する裁判例は、債権配当手続において、物上代位権者と質権者との間の優先関係が問題になったものであり、一般債権者と物上代位権者との優先関係を問題とする本件とは事案を異にし、参照できない。

二  原告は、前記認定のとおり、根抵当権に基づく物上代位権を行使して債権差押えしており、本件配当手続においては、一般債権者にすぎない被告に優先するものといえる。

(裁判官 佐藤真弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例